「じゃ、会社辞めます。今年いっぱいで。」
言ってしまった。その場の勢いではあった。
売り言葉に買い言葉のようなものだったかもしれない。
目の前には、尊大な顔つきをした中年女性。
中途採用で入社してから、この1年間上司であった女性だ。
嫌味たっぷりな顔つき。OK いつもどおり。
「辞めてどうするの?」
私のことを心配している顔つきを作りながら中年女性が聞く。
「どうせ口が滑っただけでしょ、辞める勇気なんてないくせに」
ありありとその中年女性の顔は言っていた。
上司の立場としての作られた顔を向けられても、その本音が顔にしっかり出ている。
・・・・もう後戻りできない。
彼女の作られた顔に混在した、私を見下している表情が
私の背中を押した。
「会社生活以外で、他にやりたいことがありますので。一身上の都合です。」
やりたいことなんか、あるわけもなかった。
無趣味で会社と自宅を往復する毎日。
行くあてもない、他にやることもない。
貯蓄にしても、この年齢からすれば胸を張れるほどは持っていない。
そんな時に退職するなんて愚かだ。わかっていた。
今までの私であれば、この嫌味ったらしい中年女性に謝罪し、その場を取り繕って
会社生活を再開していただろう。
しかし、毎日毎日陰湿ないじめに耐えられるほど私もタフではなくなった。
もう限界だった。
ここに居てはいけない。
きっかけは些細なことだったのかもしれない。
しかし、原因を分析解明し更に解決するという、当たり前のことすら面倒になっていた。
もう、どうでもいい。
退職することによるリスクは大きすぎるものであったが、そんな状況とは裏腹に
暗く淀んでいた自分の心が、すっきりと明るくなっていくのが感じられた。
これからのことは、あとで考えよう。
馬鹿なことをしているのは最初から承知だ。
何年後かに、この退職を後悔するときが来るかもしれない。
それでも
ずっとはめられていた手かせ足かせが突然外されたような
体が軽くなっていく感じ。
さて。ほんと、これからどうしよっかな。